残留塩素計で二酸化塩素は測定できる!?
近年、温浴施設のレジオネラ対策として、二酸化塩素(ClO₂)消毒を実施する施設が増えています。
一方、現場では「残留塩素計はあるが、二酸化塩素専用の測定器はない」ということも少なくありません。
DPD法を採用した残留塩素計の中には、一定の条件下で二酸化塩素の測定に利用できるものがあります。
本記事では、DPD法の基本原理、残留塩素から二酸化塩素濃度を求める方法、残留塩素が共存する場合の注意点を解説します。
注意
実際の測定方法、使用試薬、測定範囲および換算の可否は、測定器や試薬によって異なります。
測定前に、必ずメーカーの取扱説明書や測定方法を確認してください。
DPD法とは


DPD法は、DPD試薬が水中の酸化性物質と反応し、桃色に発色する性質を利用した測定法です。発色の濃さを標準色と比較して測定する方法のほか、光度計などを用いて吸光度を測定し、濃度を求める方法があります。
DPD法は主に遊離残留塩素の測定に用いられますが、DPD試薬は二酸化塩素にも反応します。そのため、測定条件と換算方法を適切に設定すれば、二酸化塩素濃度の推定に利用できる場合があります。
なぜ二酸化塩素を測定できるのか?
DPD試薬は、塩素や二酸化塩素などの酸化剤によって酸化され、セミキノン中間体が生成することで桃色に発色します。一定の測定条件では、発色の強さと酸化剤の量との間に関係があるため、色の濃さから濃度を求めることができます。
1.DPDが酸化されてキノンジイミン(無色)が生成

2.キノンジイミンとDPDが反応し、セミキノン中間体(桃色)が生成

引用元:Wikimedia Commons DPD1.jpg (07:57, 25 July 2017 (UTC)), DPD2.jpg (08:09, 25 July 2017 (UTC))
ただし、塩素と二酸化塩素では、同じ濃度でもDPD試薬に対する反応量が異なります。
このため、塩素濃度として校正された残留塩素計の表示値を、そのまま二酸化塩素濃度として扱うことはできません。
残留塩素換算値から二酸化塩素濃度を求める方法
DPDの発色量が同じ場合、反応に関与した塩素と二酸化塩素の物質量には、おおむね次の関係があります。
| 同じ発色量を得るために必要な物質量の比 | |
| 塩素(Cl2) | 1 |
| 二酸化塩素(ClO2) | 2 |
つまり、同じDPD発色量を得るためには、二酸化塩素は塩素の約2倍の物質量が必要です。これをモル濃度で表すと、次の式となります。
ClO2モル濃度(mol/L)
= 2×Cl2モル濃度(mol/L)
次に、この関係を、現場で一般的に用いられる質量濃度(mg/L)に換算します。二酸化塩素のモル質量67.45g/molおよび塩素のモル質量70.90g/molを用いると、次の式で表されます。
ClO2濃度(mg/L)
= 2×残留塩素計の表示値(mg/L)×67.45 / 70.9
したがって、理論上の換算係数は約1.90(=2×67.45 / 70.90)となります。
以上より、残留塩素計の表示値から二酸化塩素濃度を求める換算式は、次のように表されます。
ClO2濃度 ≈ 残留塩素計の表示値 × 1.90
換算例
| 残留塩素計の表示値(mg/L) | 二酸化塩素濃度の換算値(mg/L) |
|---|---|
| 0.5 | 約0.95 |
| 1.0 | 約1.9 |
| 2.0 | 約3.8 |
| 3.0 | 約5.7 |
※測定器の上限を超える濃度では、退色や測定誤差を生じることがあります。
使用する測定器と試薬の測定範囲を必ず確認してください。
遊離残留塩素が共存する場合
二酸化塩素を使用している水中でも、遊離残留塩素が検出されることがあります。
主な要因として、次のようなものが考えられます。
- 次亜塩素酸系薬剤を併用している
- 原水に遊離残留塩素が含まれている
- 配管やタンク内に塩素系薬剤が残留している
DPD試薬は二酸化塩素と遊離残留塩素の両方に反応します。そのため、遊離残留塩素が共存している状態で測定すると、表示値は両成分の影響を受けます。
この場合、表示値に単純に1.90を掛けても、正しい二酸化塩素濃度を求めることはできません。
遊離残留塩素の影響を抑えて測定する方法
二酸化塩素を選択的に測定する方法の一つに、DPD-グリシン法があります。
グリシンは遊離塩素と速やかに反応し、遊離塩素によるDPD試薬の発色を抑えます。この性質を利用することで、遊離残留塩素が共存する試料でも、その影響を抑えながら二酸化塩素を測定できます。
市販の二酸化塩素測定器や測定キットの一部でも、この原理を利用した測定法が採用されています。
DPD-グリシン法の基本的な測定手順は次のとおりです。
- 検水を採取する
- 所定量のグリシン試薬を加える
- 十分に混合する
- DPD試薬を加える
- 残留塩素計で測定する
- 表示値を二酸化塩素濃度に換算する
※試薬の濃度、添加量、検水量、混合方法および反応時間は、使用する製品や測定方法によって異なります。測定器および試薬の取扱説明書に従ってください。
※自己調製したグリシン溶液を使用する場合は、試薬濃度、添加量、反応時間などを含め、妥当性を確認した測定手順に基づいて実施する必要があります。
まとめ
DPD法を採用した残留塩素計は、測定器および試薬の仕様が適合していれば、二酸化塩素濃度の測定に利用できる場合があります。
測定時の主なポイントは、次の3点です。
- 残留塩素計の表示値を、そのまま二酸化塩素濃度として扱わず、適切な換算を行う。
- 遊離残留塩素が共存する場合は、その影響を抑えるための前処理を行う。
- 測定器および試薬のメーカーが指定する検水量、試薬量、反応時間、測定範囲などの条件に従う。
現場にある残留塩素計を活用する場合は、測定原理、試薬の反応特性および適用条件を確認することが重要です。
また、測定精度が求められる場合は、必要に応じて二酸化塩素専用の測定法との比較確認や、標準液などを用いた測定結果の妥当性確認を行ってください。
